アクティヴ・チャイルド/ハウ・トゥ・ドレス・ウェル @ 代官山UNIT

2010年にEP『Curtis Lane』、今年8月に1stアルバム『You Are All I See』をリリースしたアクティヴ・チャイルド。そして『You Are All I See』の1曲にゲスト参加し、昨年『Love Remains』でデビューしたハウ・トゥ・ドレス・ウェル。R&Bという要素を共通に持ち、しかも従来のR&Bとは全く違ったフィールドを追求する2組のアーティストのライブが、今夜ここ代官山UNITで実現した。

ステージには、先日解散を発表したポニーテイルの元ギタリストで、日本育ちのダスティン・ウォンがスペシャル・ゲストとしてまず登場。椅子に腰かけて基本的にはテレキャスター1本で演奏するスタイルから、同時録音の技術を用いながら4拍子のメロディの上にカウンターメロディを重ねて8ビートに移行し、さらにその上に32拍子の細かいパッセージを重ね…と音の建築物を築き上げていくような洗練された演奏を披露する。しかしそこに人工的な感じはなく、音の密度がピークに達したときに浮かび上がる海や太陽や木々や雨や、その他多様な生命がその多様性をありのままに祝福されているかのような豊饒なイメージは、まさに彼の出身地であるハワイの自然を彷彿とさせるものだったように思う。

続くハウ・トゥ・ドレス・ウェルは、ブルックリンとドイツに拠点を置くトム・クレールのソロ・プロジェクト。ステージ奥に張られたスクリーンに曲ごとに異なる映像作品を映写しながら、“Ready For The World”や“Suicide Dream 2”などの代表曲を歌っていく。泣いている女性のフッテージが3度くらい出てきたのが印象的だったが、「次はトーキョーのためのスペシャルな曲です。うまくいくといいけど」と言って始められた子守唄のようなアカペラ曲では、昨年亡くなった大野一雄の舞踏も映し出された。

190センチはありそうな身体から絞り出すようにして歌われるファルセットやメリスマ的旋律はまぎれもなくR&Bのものだけれど、ハウ・トゥ・ドレス・ウェルはその情熱の対象に生きている異性ではなく死んでしまった親友(『Love Remains』は27歳で亡くなった彼の友人にインスパイアされているそうだ)を据え、R&Bが通常持っているセクシュアルな部分を抜き取ってしまうことで、人間の生にまつわるある種の歓びと悲しみをダイレクトに表現することに成功しているように見える。今年7月にリリースされた4曲入りの『Just Once EP』(同じ友人に捧げられている)はそうした音楽性のひとつの到達点として、今後長く聴かれていく作品になるのではないかと思う(http://yourstrulysf.bandcamp.com/album/just-once-ep)。

アクティヴ・チャイルドことロサンゼルス出身のパット・グロッシは、2人のサポート・メンバー(キーボードとドラム)とともにステージに登場。グロッシ自身は最初のうちハープを抱えて座ったまま歌っていたが、3曲目の“Hanging On”からはステージに用意されたもう1台のキーボードに移動し、キーボードのサポート・メンバーがベースを弾いて、よりアップテンポなセットに入っていく。

“Playing House”にはアルバムと同様にハウ・トゥ・ドレス・ウェルが参加。この曲と、続いて披露されたアクティヴ・チャイルドの曲の中では最もポップな部類に入る“When Your Love Is Safe”で最初の山場を作る。フィラデルフィア少年合唱団に在籍していたというグロッシのクラシカルな発声法のボーカルにはパーソナルというよりはやや普遍的な、どこか神話めいたものを感じさせるところがあって、それが一般の洋楽リスナーにはなかなか彼の音楽の世界に入っていきづらい要因になっているかもしれない。

しかししばらく聴いているうちにそのスタイルに慣れてくると、そこには彼独自の一貫性があり、ストーリーがあり、カタルシスさえあることが分かってくる。終盤のクライマックスとなった“Ancient Eye”や“I'm In Your Church At Night”といった曲のタイトルが示唆するように、重厚なリズム・セクションと天を舞うようなボーカルとハープのあいだに広がるその物語は、太古から息づく儀式性のようなものに彩られている。それが彼の曲に時代や国境を越えた質感を与えているように思えた。

今夜のライブでは途中のステージ転換でテリアス・ナッシュ(The-Dream)の曲がBGMに使われていた。彼がクリスティーナ・ミリアンとの離婚後、今年8月に発表したフリーDLアルバム『1977』(http://radiokillarecords.com/)もまたR&B作品としては「あまりに苦痛に満ちている」という点でシーンに新しい風を送り込むものだったけれど、音楽によって個人の強い感情を安全に吸い上げ、より大きな何かに繋ごうとするという意味では今夜の2組も真に新しい試みをしていると言えるだろう。そしてそれは我々日本人が今まさに求めているものでもあるのではないだろうか。(高久聡明)
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