乾いたメランコリィ、温かい孤独、そして掠れた艶。ジェイムス・ブラントの歌と歌声には、常にそんな矛盾を孕んだ二面性が備わっている。その矛盾を溶解して分かりやすくポップネスのみを掬い取ると、“ユア・ビューティフル”や“セイム・ミステイク”のような楽曲に結実するわけだが、彼の魅力はむしろ複雑な二面性を持ちながらポップでもある、その矛盾そのものにあると思うのだ。同時期に同じようなプロセスを辿って大ブレイクを記録したダニエル・パウターの底抜けのシンプリシティとは真逆で、ブラントの本質はその揺らぎを曲毎に体感できるアルバムでこそ感じられるもので、なのに未だに彼はアルバム・アーティストとして過小評価されているとも思う。
この2年ぶりの新作もまた、「ああ、《天使の歌声》の人ね」と理解しているだろうrockin'on読者にこそ聴いて欲しい一枚である。デビュー・アルバムからより「陰」を重ね濃くした前作『オール・ザ・ロスト・ソウルズ』と比較すると、逆に「陽」に向かいつつある作品と言えるかもしれない。しかしふとした瞬間に差しこむ闇の存在は健在で、やはり一筋縄ではいかない聴き込める作品。(粉川しの)
アルバム・アーティストです
ジェイムス・ブラント『サム・カインド・オブ・トラブル』
2010年11月10日発売
2010年11月10日発売
ALBUM