デビュー30年目の初挑戦

モービー『リプライズ』
発売中
ALBUM

クリスチャンでビーガンのパンク・ロッカーとしてスタートを切りながら、レイヴと出会ってダンス/エレクトロニック路線に転向し享楽の限りを尽くした人だから、キャリアの急旋回は初めてではないが、ここにきてモービーが名門ドイツ・グラモフォンから、クラシック・アルバムを送り出した。

正確には、多数のゲストと共に、オーケストラを交えてオーガニックな再解釈を施したベスト盤であり、子供時代にピアノを学んだ彼がクラシックから得た影響を、浮き彫りにする1枚でもある。

計14の収録曲の多くは、1999年発表の世界的大ヒット作『プレイ』からセレクト。同作は主に、20世紀初頭に米南部で集められたブルースやゴスペルの音源を、エレクトロニックなサウンドスケープに融合させた作品だった。ゆえに今では“文化の盗用”と糾弾されたりもしているが、今回はグレゴリー・ポーターらを起用して新たにボーカルを録音。時代に即した配慮をし、元からシンフォニックな曲の数々を、メロディの美しさとエモーショナルな重みを強調しながら自然に進化させた形だ。

そういう意味では、クラブ・アンセムとしてお馴染みの“ゴー”ほかダンス系の曲にしても、随所で多用していたピアノの響きなどにクラシックとの親和性が見受けられ、違和感なくドリーミーなアンプラグド・バージョンに変換されている。

そんな中で、地味な曲ながら特別な思い入れがあったという“ザ・ロンリー・ナイト”は、間違いなくハイライトだ。オリジナルでも歌ったマーク・ラネガンが、ここではピアノと弦楽器のハーモニーを背景に、クリス・クリストファーソンとデュエットを披露。モービー自身を含め、依存症の闇と孤独を知る3人の静かな語らいに、引き込まれずにいられない。(新谷洋子)



ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。
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『rockin'on』2021年7月号