いまだに!もっとも過小評価されているのがザ・ホワイト・ストライプスだ。99年の衝撃的なデビュー、そして11年の解散から、もう10年が経過した。その後のジャック・ホワイトはザ・ラカンターズ、ザ・デッド・ウェザーでも破壊力満点の作品群を出し続けてくれているし、ライブの現場はもちろんのこと、サードマン・レコーズ・オーナーとしての活躍ぶりなど挙げていけばキリがないのだが、その根底には、ザ・ホワイト・ストライプスで鳴り響かせようとしたものが、いまでも強烈な存在感として感じられる。
ガレージ・ロック、中でもデトロイトならではの都市のフォークロアとしてのロックの息づかいを00年代にこれほどリアルに響かせたグループはいなかった。それはギターとドラムスという最小編成だけじゃなく、サウンドや楽曲のすべてを極限まで削り取ったことからこそ生まれる領域で、その根源的な在り方が今も少しも古ぼけさせない。というのをみごとに証明してみせるのが、今回の『ザ・ホワイト・ストライプス・グレイテスト・ヒッツ』だ。
確かに“セヴン・ネイション・アーミー”(本作ではラストに収録)のようにグレイテスト・ヒッツの看板に相応しい曲はあるのだが、それ以上に全26曲全体で生む圧倒的な空間と、そこに身を浸すことの心地よさ。ある夜、ホワイト家の屋根裏部屋で姉弟(!?)がデヴィッド・ボウイの“月世界の白昼夢 (Moonage Daydream)”をカバーすることで始まったプロジェクトの伝説は、ファースト・シングル“レッツ・シェイク・ハンド”で拡がっていくが、同曲で始まるこの初のベスト・アルバムがそれを再体験させてくれる。メグ・ホワイトの叩くプリミティブなドラムスに沿って縦横に展開していくジャック・ホワイトのギターやキーボードのどれもがジャンクな装いをまといながら、決してスタイル化していないところがポイントだ。
じつはこれが難しく、シンプルであればあるほど、すべてが見透せるだけに作為や計算も見分けやすい。60年代のバンド連中はすべてが初体験であるだけに心底、確信を持って突き進んでいるから粗暴な表現も、ギリギリのところでピュアな訴求力になったりもしたが、それを情報や機材が段違いの中で再現するのは難しく、しかしそれをやってのけたのがザ・ホワイト・ストライプスだった。
“レッツ・シェイク・ハンド”、“ザ・ビッグ・スリー・キルド・マイ・ベイビー”と最初期の音源で始まる本作は、そこらがよくわかる。グループが活動中にリリースしたアルバムは『ザ・ホワイト・ストライプス』(99年)、『デ・ステイル』(00年)、『ホワイト・ブラッド・セルズ』(01年)、『エレファント』(03年)、『ゲット・ビハインド・ミー・サタン』(05年)、『イッキー・サンプ』(07年)の6枚。もっともヒットしたというか、よく知られているのは4枚目の『エレファント』で、ロンドンで、63年以降の機材はいっさい使わず、8トラックでレコーディングされたアルバムは、彼らのやりたかったことが最高にミックスされた、まさに頂点にふさわしいもので、今回もそこらを意識しつつ全キャリアを俯瞰出来るよう構成されている。
大ざっぱに言えば、前記の曲に加え“スクリュードライバー”や“アイ・フォート・ピラニア”といった1st『ザ・ホワイト・ストライプス』、そして2nd『デ・ステイル』の“ハロー・オペレーター”、“デス・レター”といった初期ナンバーの、レコーディングも含めた猛々しさが、エッセンスは失うことなく洗練されていく流れを一つの軸として捉えられるように編集されているのだが、単純に制作順や発表順といった編年体で並べたら簡単に感じられるところをシャッフルすることによって、そう簡単に納得いかないように仕掛けられているのが、アルバム全部持ってるよ、なんてヘヴィなファンにとっても新鮮な聴き所となるはずだ。
『エレファント』で驚かされたバート・バカラック&ハル・デヴィッドの名曲“アイ・ジャスト・ドント・ノウ・ホワット・トゥ・ドゥ・ウィズ・マイセルフ”のカバーに続いて1stからの“アストロ”が飛び出し、さらに『イッキー・サンプ』に収録された50年代のシンガー、コーキー・ロビンズの“コンクエスト”へとつながるダイナミズムは、このグループのいまだに薄れることのない特異性を鮮明にしていく。
今回ソニー・ミュージックとの新たな契約によってザ・ホワイト・ストライプス、ザ・ラカンターズ、ザ・デッド・ウェザー、そしてソロ作品やサードマンなどすべてが一つのレーベルに収まることになるそうで、これからの新展開に妄想と期待は高まるばかりだ。(大鷹俊一)
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