●セットリスト
01. 宣誓
02. 生きて行く
03. クジラ
04. オレンジ
05. 閃光
06. ヘイベビ
07. VANS
08. 恋をしよう
09. 犬猫人間
10. サーカス
11. うたいたいこと
13. tour
12. Linger
14. ひまつぶし
15. しょうもない
16. きみは春
17. 拝啓、少年よ
18. 短編小説
19. ティーンエイジサンセット
20. 僕らの時代
21. 宣誓
22. きれいなもの
23. ゆれる
24. LILLY
25. 君は僕のともだち
26. 僕らは今日も車の中
27. 星丘公園
28. 番狂わせ
[Encore]
29. 月まで
30. スリーピース
31. 夢の途中
32. がらくた讃歌
2023年のゴールデンウィークの最後の日=5月7日(日)、Hump Backが日本武道館にて開催した「“打上披露宴” at 日本武道館」。5ヶ月前に所属事務所の社長が「またHump Backを武道館で観たい」と言ったことから急遽決まった(と最初のMCで林萌々子が説明した)、Hump Backにとって二度目となるこの日本武道館ワンマンは、2022年10月に林萌々子(Vo・G)、11月に美咲(Dr・Cho)が結婚を報告したので、もっと前に結婚したぴか(B・Cho)も合わせて、3人の「“打上披露宴”」として行うことにした、ということである。
「うちらまだ結婚式やってないしさ、やるはっきりとした予定もないからさ。これが初めての結婚行事なんで。みんな、めちゃくちゃ祝って、参列して帰ってくださいね」と、林萌々子。
というわけで、チケット代は「ご祝儀」という名目で発売され、当日はすべての座席にメンバー3人のうちの誰かからのメッセージカードが置かれ、退場時には引き出物としてシールが配られる、という、披露宴仕様のサービスが行われた。
オープニングは、バンドサウンドにアレンジされた“結婚行進曲”が鳴り響く中、アリーナの三方向から花嫁姿(それぞれアレンジあり)の林萌々子・ぴか・美咲が登場し、そのまままっすぐ歩いてフロア中央で落ち合い、3人で腕を組み、足並みを揃えてステージへ向かう──という登場の仕方。そして「宣誓! 僕たち、私たちは、永遠の愛とロックンロールを誓いまーす! 『“打上披露宴”』、始めー!」と林萌々子が叫び、“宣誓”に突入し、ライブが始まる。
途中、3つ用意されたボタンを押すと何かの音声が出る、というコーナーで、本人たちに内緒で用意された、メンバーの家族からのお祝いメッセージが流れる、というサプライズもあった。
中盤から後半にさしかかるタイミングのヤマ場であった17曲目“拝啓、少年よ”は、バンドを始めた頃から(結婚も含む)現在までを振り返り、現在の自分を総括する、林萌々子の弾き語りを経てから、歌われた。
また、このライブは、チケットの先行発売が「プロポーズ先行」「ブーケトス先行」「ケーキ入刀先行」というふうに名づけられていて、それらの伏線がこのライブの中でいかに回収されていったかを振り返るコーナーも、アンコールで設けられた。
そこで「ケーキ入刀はまだや」という話になり、三度目のボタン発動でウェディングケーキ(四星球まさやんの手による段ボール製のやつ)が運び込まれ、3人が入刀の儀を行う──。
そしてラスト。“月まで”で始まったアンコールを、“がらくた讃歌”で終えると、端から端まで行って挨拶した3人はステージを下りるが、同時に林萌々子にカメラが張りつき、その映像がスクリーンに映し出される。
スタッフからアコースティックギターを受け取った林萌々子が“マイユー”を歌い始めると、それにオーバーラップして、このライブのスタッフロール(手書き)が、流れ始める。
そこにマラカスとタンバリンで、ぴかと美咲が加わり、3人で武道館のバックヤードを歩き始める。そのまま歌と演奏は続行、出くわすスタッフたちから花を受け取ったりしながら歩き続け、歌い続け、自分たちの楽屋に辿り着く。
「HAPPY WEDDING」の装飾の前に落ち着き、そこでフルコーラスを歌い終える。3人で挨拶し、ドアが閉まると、そこにはメンバーからオーディエンスへのメッセージが貼られている──。
前述のように、「“打上披露宴”」ならではの、楽しかったり笑えたり、観ていてグッときたりする演出がいろいろあるライブだったが、中でも特に、この「終わり方」が白眉だった、自分にとっては。というか、本当にやられてしまった。客電が点き、終演アナウンスが流れ、お客さんが帰り始めても、しばらく動けなかったくらい。
二度目の日本武道館を、どんなものにすればオーディエンスに喜んでもらえるか、楽しい時間を過ごしてもらえるか、足を運んだ意味があったと感じてもらえるか、ということの集約が、このエンディングの演出に凝縮されていた。と、自分は感じたのだった。
ファンに自分たちの結婚を祝ってほしいから「“打上披露宴”」にしたのではない。みんなを楽しませるための方法を考えた結果、自分たちの披露宴を(肉親や友人ともやっていないのに)、ファンに捧げることにした、というほうが近いのだと思う。
常に正直で、常にあけすけで、常に飾りも虚飾も大げささもない、常にそのまんまなロックバンド=Hump Backの底力を思い知らされた、そんな2時間半・全33 曲(もちろん最後の“マイユー”を含む)だった。
なお、6月21日(水)にリリースされるニューシングル『tour/Linger』の、“tour”も“Linger”も、この日、演奏された。(兵庫慎司)
提供:株式会社バップ
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部